【コラム】アマゾンの先住民族「ヤノマミ族」に学ぶ!一生モノの腎臓をつくる食事術|腎臓内科部長が解説

アマゾンの熱帯雨林に暮らす先住民族、ヤノマミ族。彼らのライフスタイルは、現代社会が抱える「慢性腎臓病(CKD)」や高血圧といった生活習慣病の謎を解き明かすための、生きた教科書として医学界から注目を集めてきました。その鍵を握るのが、彼らの特異な食生活における「塩分(ナトリウム)」と「カリウム」の絶妙なバランスです。

■ ヤノマミ族が示す「究極の低塩分・高カリウム」食

現代の日本人は1日に約10g前後の食塩を摂取していますが、ヤノマミ族の食塩摂取量はわずか1日0.05gと推定されています(ナトリウムの排泄量からの推定です、BMJ. 1988 Jul 30;297(6644):319-28.)。彼らは調味料としての塩を持たず、自然界の動植物に含まれる微量のナトリウムだけで生きています。

一方で、彼らの食事はバナナ(プランテイン)やキャッサバ(芋類)といった、カリウムが豊富な果物や野菜が中心です。研究によれば、ヤノマミ族のナトリウムとカリウムの摂取比率は現代人と正反対であり、この「低ナトリウム・高カリウム」のバランスが、彼らに高血圧という概念をもたらさない最大の要因と考えられています。

注意点として、ヤノマミ族の塩分摂取量は、あくまで特殊な環境下での適応結果です。現代の生活環境において、ここまで極端に塩分を制限すると、体内のナトリウム濃度が急激に下がる「低ナトリウム血症」を引き起こす危険があります。ヤノマミ族の数値をそのまま目標にするのは現実的ではなく、推奨されません。一般的な減塩の目安としては、日本高血圧学会が推奨する「6g未満」を目標に、無理のない範囲で段階的に進めることが安全です。

■ 血圧と腎臓の切っても切れない関係

なぜ、ヤノマミ族の食生活が慢性腎臓病の予防において重要視されるのでしょうか。それは、高血圧が腎臓を破壊する原因の一つだからです。腎臓病が進行した先にある「人工透析」の導入原因として、長年トップを占めてきたのは糖尿病(糖尿病性腎症)でした。しかし現在、高血圧を背景とした「腎硬化症」が原因の19.3%を占め、第2位に浮上しています(日本透析医学会2023年)。さらに懸念すべきは、この腎硬化症による透析導入が増加傾向にあるという事実です。

腎臓は血圧を調節する司令塔であると同時に、血圧の影響をもろに受けやすい臓器でもあります。過剰な塩分摂取は血液量を増やし、血圧を上昇させます。この高血圧が続くと、腎臓内の細い血管に過度な負担がかかり、ろ過機能が徐々に失われていきます。これが「慢性腎臓病」の始まりです。ヤノマミ族には、加齢に伴う血圧上昇がほとんど見られず、結果として高血圧由来の腎障害も極めて稀であると考えられています。

■ カリウムの「腎保護」メカニズム

近年の研究では、単に塩分を控えるだけでなく、カリウムを十分に摂取することが腎臓を守る上で重要であることが示唆されています。カリウムには、腎臓でのナトリウム再吸収を抑制し、尿中への排泄を促す働きがあります。

ヤノマミ族のような高カリウム食は、腎臓の働きをサポートし、血管の柔軟性を保つ助けとなります。「減塩(ナトリウムを減らす)」と「増鉀(カリウムを摂る)」の両立が、最強の腎臓保護戦略といえるのです。

    ■ 現代人への教訓と慢性腎臓病患者の注意点

    ヤノマミ族の知恵を現代に応用するには、精製された加工食品(塩分過多・低カリウム)を避け、新鮮な野菜や果物を意識的に取り入れることが基本となります。

    ただし、注意が必要なのは、既に慢性腎臓病が進行している方です。腎機能が著しく低下すると、カリウムを正常に排泄できなくなり、血液中のカリウム濃度が上がる「高カリウム血症」を引き起こす恐れがあります。この段階では、ヤノマミ族のような高カリウム食は逆に心停止などのリスクを招くため、制限が必要になります。

    ヤノマミ族の体は、人類が本来持っていた「塩を節約し、カリウムを賢く使う」ための高度な環境適応能力を今に伝えています。彼らの暮らしは、私たちが当たり前のように摂取している「塩分」が、いかに腎臓という精密機械に負荷をかけているかを静かに物語っています。慢性腎臓病を予防し、健やかな腎機能を維持するためには、彼らの食卓に並ぶ自然の恵みと、そのミネラルバランスに学ぶべき点が多いのです。

    もしご自身の健康管理として活用される場合は、まずは健康診断のeGFR(腎機能指標)を確認し、現在の腎機能に応じた適切なカリウム摂取量を専門医に相談してみてください。

    腎臓内科部長 那須 誠